海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

新聞記者

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「怪しい彼女」などで知られる韓国の演技派女優シム・ウンギョンと松坂桃李がダブル主演を務める社会派サスペンス。東京新聞記者・望月衣塑子の同名ベストセラーを原案に、若き新聞記者とエリート官僚の対峙と葛藤をオリジナルストーリーで描き出す。東都新聞の記者・吉岡エリカのもとに、医療系大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届く。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、強い思いを秘めて日本の新聞社で働く彼女は、真相を突き止めるべく調査に乗り出す。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原は、現政権に不都合なニュースをコントロールする任務に葛藤していた。そんなある日、杉原は尊敬するかつての上司・神崎と久々に再会するが、神崎はその数日後に投身自殺をしてしまう。真実に迫ろうともがく吉岡と、政権の暗部に気づき選択を迫られる杉原。そんな2人の人生が交差し、ある事実が明らかになる。監督は「デイアンドナイト」の藤井道人。(https://eiga.com/movie/90346/より)

8.2/10.0

安倍政権下のここ数年で起こった出来事を下敷きとした、非常に痛快な映画だ。
同時に重厚な人間ドラマも展開されているので劇映画としても見やすい。個人的はもう少し実録風味にしても良かったかなと思ったけれども。

やはり特筆すべきは主演俳優2人の演技。松坂桃李は単なる「イケメン俳優」的な枠組みから意識的に脱しようとしている気概がスクリーン越しに伝わって来る。
彼女がその名を知らない鳥たち』『娼年』『孤狼の血』と観てきたが、「国に尽くすが不義は許せないエリートの官僚」「自分の生活を守りたい家庭人」といった多面的な表情を覗かせる今作の演技は、キャリアハイではないだろうか。ラストシーンは凄まじい。
一方のまさかの韓国からの出演となったシム・ウンギョンも素晴らしい。取材対象者を覗き込むような視線に見覚えがあるなぁと思って調べてみたら、『サニー 永遠の仲間たち』の主演の女の子でびっくりした。「あんなに幼かったのに!」と信じられない思いでいると、そもそもサニーが7年前の映画だったということで二重に驚いた
*1はじめは、「日本名の彼女がなぜあからさまに片言で新聞記者をやっているのか」に疑問符が浮かぶが、それも綺麗に回収されるので物語を純粋に追ってみてほしい。

あまり「この事件がモチーフ」など書き連ねると興を削いでしまうので言及はしないが、一点だけ。
本作が望月衣朔子さんの自伝的新書『新聞記者』を原案とするなら、官房長官の定例記者会見のシーンも入れて欲しかった。
というか、本作には総理以下の内閣のメンバーが登場することはない。
内調が煮え切らない隠蔽体質でもって工作活動を行なっているのは、そもそもが政権を握る人間たちの幼稚な自尊心を保護するためだろう。

諸悪の根源をスクリーンに引き出し、「No」を突きつけても良かったのではと思う。*2

そしてとても残念な点がパンフレットの内容の物足りなさ。
印刷やフォントなどの各所で新聞を彷彿させるデザインは素敵なのだが、いくらなんでもボリューム不足。

主演2人へのがっつりインタビューや、せめて監督からのメッセージも掲載してほしいところ。
あとこの映画でモチーフとなっている実際の事件の年表とかも掲載すれば、松坂桃李や本田翼目当てで観にいった若い観客も、より社会に興味を持ってくれたのではと思う。

そう、それくらい奇天烈なことが、この国ではもう起こってしまっているんだから。

*1:さらにいえば、そんな昔の作品を1年前にリメイクしだす邦画の狂ったバランス感覚にも驚く……ちなみにリメイク版は未見です。

*2:そうなったら現実の内調からの妨害があったかもしれないが