海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

ハード・コア

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山田孝之佐藤健が兄弟役を演じ、作・狩撫麻礼、画・いましろたかしによる伝説的コミック「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」を実写映画化。山田が主演のほかに自らプロデュースも務め、「映画 山田孝之3D」などでも組んだ山下敦弘監督がメガホンをとる。あまりにも純粋で不器用なために世間になじめずに生きてきた男・権藤右近。群馬の山奥で怪しい活動家の埋蔵金堀りを手伝って日銭を稼ぐ彼にとって、心優しい仕事仲間・牛山だけが心を許せる相手だった。右近の弟でエリート商社マンの左近は、そんな2人の無為で自由な日々を歯がゆい気持ちで見守っている。ある日、右近と牛山は、牛山が暮らす廃工場で、古びた1体のロボットを見つける。その分野に詳しい左近が調べると、実は現代科学すらも凌駕する高性能なロボットであることが判明。彼らはロボットと不思議な友情を築いていく一方で、その能力を使って巨額の埋蔵金を密かに発見してしまう。個性派俳優・荒川良々が牛山役を演じる。

https://eiga.com/movie/87592/gallery/より)

 9.2/10.0

まずはじめに言いたいことは、この映画……というかこの物語は、万人受けするものではないということ。それでも、この社会で息苦しさを感じている人にとっては、これ以上にない救済の物語となっていることを伝えておきたい。

山下監督×山田孝之作品ということで、人によっては「テレ東深夜枠ドラマ」のシュールな雰囲気を想像するだろうし、その世界観は継承されている。
しかし本作をコメディとして観てしまうとこぼれ落ちてしまうものがあるのも事実だ。この作品が平成初めにコミック連載が始まり、平成の終わりに映画化されたことは非常に意義深いものだと思う。

原作から30年近い年月を経て現代に身を置く右近は、相も変わらず世間の狂騒を唾棄し、居場所のない自分にも腹を立てている。
牛山も相変わらずまともな言葉を喋れず世間から爪弾かれ、左近も一見華やかな商社マンをやっているようだが、生き方はどこか空虚だ。

この設定がある種恐ろしいところは、便利になったとはいえ社会に救う病巣は未だに不変であるという点だ。
かつてのバブルの狂騒は、いまはハロウィンなどの暴徒に変わっているし、受験をはじめとする競争社会の加熱も変わらない。
流れ流され辿り着いた極右団体からすら搾取される右近たちは、現代社会では問題が勃発し続けている外国人研修生を彷彿させる。

右近も左近も牛山も、現代社会に存在していてもなんら違和感のないこの国の変わらなさ具合は、非常に恐ろしい。

それがこの物語の持つ強度とカルト的な人気に結びついているのはいうまでもないが、漫画だからこそ成立し得る荒唐無稽な設定を、執念のみでフィルムに落とし込んだ制作・役者陣の手腕は見事としか言いようがない。
冒頭の山田孝之の演技で感涙ものだ。大人の女性然とした松たか子があっさりハロウィン帰りの若者たちとふざけ半分でキスするシーンは右近同様に心の中が削られた気分になった。

もちろん牛山を演じる荒川良々も素晴らしい……というか、あまりにまんま過ぎて怖い
心の綺麗な牛山を言葉を発さず仕草だけで演じきった姿勢には、原作への大きな愛を感じる。

濃すぎる二人の影になりがちな佐藤健も良い。ある種この世界でのバランサー、狂言回し的な役となっているが、彼も右近の弟ということもあり、社会への居心地の悪さをきっちりと表現していた。

脇役も含め、見事にいましろたかしのインクから生まれ出たかのうような振る舞いを観れただけでも満足だ。

 

はたから見ればしょうもないエピソードしか展開されていない作品かもしれないが、右近のもがきや牛山の苦悩が伝わってきて何度も目が潤んでしまった一本。

とはいえ、少年ジャンプ以上に売り上げと人気がすべてのシネコン界隈では速攻で淘汰される映画なので、気になる人は早急に観にいってください。

 

【※以下、結末のネタバレを含みます】

この映画で触れなければいけないのは、やはり原作と異なるオチ部分だろう。
パンフレットを読むと、山下監督は「歳をとったってことだと思います」と書いている。

右近と牛山への「救い」となったあの展開としたのは、やはりそれだけ時代がより世知辛いものになってきていることの証左にも思える。