海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

カメラを止めるな!

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※いつも通りあらすじを「映画.com」より引用していますが、極力前情報抜きで見てもらった方が面白いと思います。
ですので、未見の方は回れ右して拡大公開中のシネコンにGO!

映画専門学校「ENBUゼミナール」のワークショップ「シネマプロジェクト」の第7弾として製作された作品で、前半と後半で大きく赴きが異なる異色の構成や緻密な脚本、30分以上に及ぶ長回しなど、さまざま挑戦に満ちた野心作。「37分ワンシーンワンカットのゾンビサバイバル映画」を撮った人々の姿を描く。監督はオムニバス映画「4/猫 ねこぶんのよん」などに参加してきた上田慎一郎。とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画の撮影をしていたが、そこへ本物のゾンビが襲来。ディレクターの日暮は大喜びで撮影を続けるが、撮影隊の面々は次々とゾンビ化していき……。2017年11月に「シネマプロジェクト」第7弾作品の「きみはなにも悪くないよ」とともに劇場で上映されて好評を博し、18年6月に単独で劇場公開。当初は都内2館の上映だったが口コミで評判が広まり、全国40館以上に拡大。(https://eiga.com/movie/88047/より)

9.3/10.0

ものすごい口コミの量で話題沸騰中の本作。
都内2館上映から始まった超マイナー映画ですが、「意外に万人受け」という評判を聞いて見てきたが、実際その通り。実は話の構造は少しややこしい映画なのだが、巧みな構成によって誰もが「そういうことか!」と頷ける作品になっている。
みんなでワイワイ観に行く鑑賞方法がオススメです。

※以降、作品の核心に触れます。

この作品に対して抱いた感情は大きく分けると2種類。

「①(低予算ながら)映画を巧みに撮ったことへの感動」「②映画作りの苦労、転じて仕事の苦楽を描いたことへの感動」の2つだ。

前者は単に映画の出来が素晴らしい。
作中作、というか4重構造ほどになっているミルフィーユ形式の作品なのだが、「自分は今●層の物語を観ているな」ということが容易に分かる構成になっている。
しかも、そこに対してわざとらしい説明は一切ない。自然な語り口や場面のショットでそれらをやってのけている、非常にスマートで観賞におけるストレスが一切ないものになっているのだ。

それで、本来ならばこの点だけでも十分に優れた邦画であると言えるかもしれない。しかし、それ以上に多くの映画好きが感動したのは、後者の②の方だ。

この部分は、今まで色々な映画を観てきた人ほど、感動が深いものになると思う。
ワンカットものといえば斬新だが、非常にぎこちない荒唐無稽ゾンビ映画が終わると、本作はその映画の制作背景を追って行くストーリーとなる。

無理難題な企画の映画(=ワンカットもののゾンビ映画)を撮らされる映画監督の周りは曲者ぞろいだ。
やたらと主義主張が多い面倒臭い役者陣、無茶振りをするプロデューサー……
それぞれの面子を立てながら映画(というかケーブルテレビ用ドラマ)の撮影を行う監督は、さながら中間管理職的な哀愁を漂わせながらリハーサルを行っていく。

当日起こる様々なアクシデントにも屈せず、ゴール(=撮影終了)に向かって行く様はゲラゲラ笑えながらも胸にこみ上げてくるものがある。

「きっと、これまで見てきたいくつもの名作・凡作・駄作も、色々な事情を乗り越えて映画になっていったんだなぁ」と思うと、自然と目頭が熱くなる。改めて、映画を好きで良かったという素直な気持ちにさせてくれる作品なのだ。

もちろん映画好きでなくとも、(特に仕事における)人間関係の悩みや、それぞれに個性のある集団が何かを成し遂げることの尊さを描いているので、単純に物語そのものに感動できる。

タイトルは、作中で監督から発せられる一言だ。作中作はワンカットの作品のため、カメラを止めた瞬間企画がポシャってしまう。それを防ぐため、監督は数々のアクシデントにテンパりながらもカメラを止めるな!と絶叫する。
一方でこの言葉は、「映画を撮り続ける」=「好きなことをやり続ける」ことへのエールにもなっている。事実この監督は、本作で一気に全国区の知名度となったのだから。

普段は暗い映画ばかり観ては、映画オタクを自認している痛々しい人間でも、このキラキラとした映画の魅力には抗えない。
万人に勧められる傑作です!