海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法/The Florida Project

f:id:sunnybeach-boi-3210:20180702105023j:plain

全編iPhoneで撮影した映画「タンジェリン」で高く評価されたショーン・ベイカー監督が、カラフルな風景の広がるフロリダの安モーテルを舞台に、貧困層の人々の日常を6歳の少女の視点から描いた人間ドラマ。定住する家を失った6歳の少女ムーニーと母親ヘイリーは、フロリダ・ディズニーワールドのすぐ側にあるモーテル「マジック・キャッスル」でその日暮らしの生活を送っている。周囲の大人たちは厳しい現実に苦しんでいたが、ムーニーは同じくモーテルで暮らす子どもたちとともに冒険に満ちた日々を過ごし、管理人ボビーはそんな子どもたちを厳しくも温かく見守っていた。そんなムーニーの日常が、ある出来事をきっかけに大きく変わりはじめる。主人公ムーニー役にはフロリダ出身の子役ブルックリン・キンバリー・プリンス、母親ブレア役にはベイカー監督自らがInstagramで発掘した新人ブリア・ビネイトを抜擢。管理人ボビー役をウィレム・デフォーが好演し、第90回アカデミー助演男優賞にノミネートされた。(https://eiga.com/movie/88315/より)

 9.4/10.0

 人々の笑顔で溢れかえる、「夢の国」の周りには、一体どんな現実が広がっているのだろうか。
「プロジェクト」は、日本で使われる「計画」という意味以外にも、「低所得者向けの賃貸物件」という意味が英語ではある。しかし、本作にはそういった「団地」は登場しない。舞台となるのは、かつて観光客向けにオープンした安モーテルだ。

そこに住むのは、「月間」単位で家賃を払う馬力のない、あるいは「プロジェクト」への入居資格すらもない人たちだ(ここ日本でいうならば「ネカフェ難民」のようなものだろうか)。

そんな「難民」たちがおりなす日常は、ピンク、ライトブルー、イエローなどの色鮮やかな外観のモーテルに囲まれて、とても美しく見える。

特に素晴らしいのが、子供たちの演技だ。
観光客から小銭をせびってソフトクリームを回し喰いする光景。ちょっとした日常に楽しみを見出す好奇心旺盛な目。そんな彼らを分け隔てなく「大きな家族」として接するモーテルの住人やスタッフたち。
この映画に出てくる人たちはお金こそないが、人間として持つべきものを、ひょっとすれば観客以上に持ち合わせている。

主人公の一人であるヘイリー*1は、最低限の仕事にも就けず困窮していく日々に頭を悩ませているが、娘に対してネガティブなことを言ったり、決して暴力を振るわない。

映画終盤で見せる、児童相談員の訪問に向けた部屋の清掃のシーンも、娘に「楽しませる」ことを前提に進めていたりする。「ゲーミフィケーション」なんていうと途端に情緒がなくなってしまうが、知識を持たずとも体感的に子育ての重要性に気付いていることは尊敬する。

キャラクターだけでなく、映画的な演出も素晴らしい。映画後半でムーニーがやたら決まった時間にお風呂に入るシーンが繰り返し挿入される。部屋には爆音のヒップホップが流れて、物音が聞こえなくなる。
このシーンの真意がやがて明らかになるのだが、この「見えない部分」の演出も非常に巧みだ。

この生活の先にある未来を、ムーニーが察してからのラストシーンは、彼女の生意気な言動に鼻白んでいた人たちの胸も打つだろう。
同時に彼らが経済的に救われない社会の不完全さが、この「プロジェクト」と隣接するテーマパークの関係性のいびつさで象徴的に描かれている。

今年は洋邦問わず「“大きな意味での家族”映画((血縁関係にとらわれないもの」の傑作が連発されている印象だ。

www.youtube.com

*1:タトゥーといい、雰囲気といいNENEに似ている。