海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

パティ・ケイク$/Patti Cake$

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困難な状況に置かれながらもラップで成功を収めようと奮闘する女性を描き、サンダンス映画祭で話題を集めた青春音楽ドラマ。ニュージャージーで飲んだくれの母や車椅子の祖母と3人で暮らす23歳のパティは、憧れのラップ歌手O-Zのように音楽で成功して地元から抜け出すことを夢見ていた。しかし現実は金も仕事もなく、周囲からは見た目を嘲笑されるつらい日々。ある日、駐車場で行われていたフリースタイルラップバトルに参加した彼女は、渾身のライムで対戦相手を破り、諦めかけていた夢に再び挑戦するべく立ち上がる。そんな彼女のもとに、正式なオーディションに出場するチャンスが舞い込んでくる。「シークレット・デイ」のダニエル・マクドナルドが主演を務め、本作のためにラップを猛特訓。母親役を「エイミー、エイミー、エイミー!こじらせシングルライフの抜け出し方」のブリジット・エバレット、祖母役を「レイジング・ブル」のキャシー・モリアーティが演じる。本作が長編デビューとなる新鋭ジェレミー・ジャスパーが監督・脚本のほか劇中音楽も全て手がけた。(http://eiga.com/movie/88593/より)

9.7/10.0

夢の純度を考える。どれだけ純粋に夢を追えるのか。
技量を超えた、その美しさだけがきらめいている瞬間をフィルムにした映画がある。『SRサイタマノラッパー』『シングストリート』……。そんな系譜に連なる、涙腺デンプシーロールをかましてくれるのが本作、『パティ・ケイク$』だ。

この映画は、単に「女性がラップでのし上がる物語」ではない。アメリカで人気のヒップホップミュージックと、夢追う若者(女性)を通して、「女性の生きづらさ」にも言及した社会的な映画だ。

主人公のパティはその容姿のせいか街中の男たちに出会い頭「ダンボ!」とからかわれる。彼女は心無い男たちに対し気にしないそぶりをしつつ、唯一の理解者であるバーブの働く薬局に向かう。店内放送のマイクを使ってラップをする二人のイノセントったらない。「今度やったらクビだから」と言い放つ女性上司含めてパーフェクトなシーンだった。

そんなパティが育った家に視点を移してみる。
女3代が暮らすパティの家には、「男(父親)」が不在だ。
当時歌手としての活動を控えた母親は、パティの妊娠が発覚後に元夫に逃げ出したらしい。

「妊婦にライダースジャケットは似合わないからね」

母親はパティにそう話す。妊娠発覚後に彼女は業界から干されてしまい、美容師の道を歩むことにしたのだ。

男の身勝手な行動によって将来の道を閉ざされた母親。しかしまるで「血は争えない」とでも言うように、パティも音楽の道にのめり込む。
彼女の場合はヒップホップミュージックだったが、この映画で出てくるラッパーは非常に差別的だ。ラップの内容も「金、女、ドラッグ」という紋切り型のもので、詩の練度でいうとパティには及ばない。

そんな街で、カラコンをしピアスまみれで全身真っ黒ファッション、高速メタルのトラックで悪魔主義的なシャウトラップを披露する、中二病青年(お金がないから移動は機材を積んだママチャリなのとか、キュートすぎるでしょ!)*1とパティはライブ会場で出会う。

あまりの奇抜な音楽性にブーイングの嵐だったが(でも実際曲はカッコ良かった)、その特異性に惹かれてパティが声をかけるのが良い。
アウトサイダー同士の想いが交錯する瞬間は、いつだって美しい。

以降の労働と音楽活動の両立の辛さ、家族との関わり方、その果てに披露される最後の曲のルーツ……全てに泣かされる。
アベンジャーズも大好きだけど、こんなこじんまりした映画も素晴らしい。

できることなら、この3人にまた会いたい。

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*1:しかし、向こうだと中二病全開でもルックスは様になるからズルい