海辺にただようエトセトラ

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ザ・スクエア 思いやりの聖域/The Square

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「フレンチアルプスで起きたこと」で注目されたスウェーデンリューベン・オストルンド監督が、2017年・第70回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞したヒューマンドラマ。アート界で成功を収めた男性がさまざまなトラブルに見舞われる様子をエレガントかつ痛烈な笑いを込めて描き、他者への無関心や欺瞞、階層間の断絶といった現代社会の問題を浮き彫りにした。現代アート美術館のキュレーターとして周囲から尊敬を集めるクリスティアンは、離婚歴があるものの2人の娘の良き父親で、電気自動車に乗り、慈善活動を支援している。彼が次に手がける展示「ザ・スクエア」は、通りかかる人々を利他主義へと導くインスタレーションで、他人を思いやる人間としての役割を訴えかけるものだ。そんなある日、携帯電話と財布を盗まれたクリスティアンは、その犯人に対して取った愚かな行動によって予想外の状況に陥ってしまう。出演にテレビシリーズ「マッドメン」のエリザベス・モス、「300 スリーハンドレッド」のドミニク・ウェスト。(http://eiga.com/movie/88313/より)

 9.6/10.0

監督の前作にあたる『フレンチアルプスで起きたこと』がハマった人なら爆笑し通しの2時間半になる。しかし笑いながらも冷静な自分が問いかけてくるだろう。「“自分は、スクリーンに映っている人たちと違う”と、言い切れるのか」と。

本作も『フレンチ〜』同様、「掴み」が非常に鮮やかだ。
主人公のクリスティアンは細身のスーツを身にまとい颯爽と出勤する。
その出勤途中で、なんともくだらない茶番劇によってスリにあってしまい、財布と携帯を失うところから物語は動きだす。

美術館のチーフキュレーターと聞くと、アートに疎い僕は偏屈な人物を想像したが、彼は非常にスマートな紳士に見えるし、実際に職場での部下からの信頼も厚い。そんな「紳士である自分」という客観的な評価を崩したくないプライドが見え隠れする様を、カメラは非常に滑稽に映し出す。

例えばトイレでのスピーチの練習をするシーン。彼はスピーチの最中に「こんな紙に書いたものを語るのはやめましょう」と言いながらメモをしまい、あたかも即興で話しだしたかのようなスピーチの練習までしている(しかも様になっている)。「アートというハイソな環境で、出世をしてきた自分」に関するブランディングが抜かりない。

こうして書くとなんとも嫌味ったらしい男に見えてしまうが、物語が進むほど、(自業自得とは言え)彼は悲劇に襲われていく。そこで狼狽しながらもなんとか策を講じる彼を見ていると、最後の方には愛おしさすら芽生えてくるから不思議だ。

悲劇は、スリにあったスマホの位置情報を突き止めたことから始まる。
スマホの場所は、移民・貧困層が暮らす集合住宅が表示されたため、一見すると犯人は分からない。

そこでクリスティアンは部下の提案もあり、アパートの全室に「盗人よ、財布と携帯を近所のコンビニにクリスティアン宛で届けろ」という脅迫状を書いて新聞受けに放り込む
「スリにあった怒り」が先行したせいだろうが、どう考えても悪手だ。取り返したい一心で行動を起こしてしまったために、別の悲劇が待ち受ける。

一方仕事では、現代アートらしく独創的なインスタレーションを試みる。真四角に囲まれたスペースを「思いやりの場」とし、例えばスマホを「スクエア」の中に置きっぱなしにして、美術館を回遊できるか?(=他の人が「窃盗しない」と信じられるのか?)を問いかけ「他者への信頼」を試す参加型アートとして成り立っている。

そういった他者へ「道徳観」を投げかける側であったクリスティアンが、物語の中では様々な道徳を踏み外してしまうところがなんとも皮肉で、映画の作りとしては巧みだ。

女性と関係を持ったのに、煮え切らない態度で相手をイラつかせるやり取り、我が子の前で見せてしまった暴力的な振る舞い、なおざりにしていたプロモーションムービーの炎上騒動など、「男」「父親」「ビジネスマン」というクリスティアンが持っていたさまざまな側面が剥がれ落ちていく。

ラストに意を決して行うアクションの先に、どんな景色が見えるのかはぜひそれぞれが確かめてもらいたいと思う。

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