海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

きみへの距離、1万キロ/Eye on Juliet

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「魔女と呼ばれた少女」で第85回アカデミー外国語映画賞にノミネートされたカナダの新鋭キム・グエン監督が、地球の反対側で暮らす男女が監視ロボットを通じて出会う運命の恋を描いたラブストーリー。北アフリカの砂漠地帯にある石油パイプラインで石油泥棒を監視する6本足の小さなクモ型ロボットを1万キロ離れたアメリカ・デトロイトから遠隔操作しているオペレーターのゴードン。恋人と別れたばかりのゴードンは監視ロボットを通して若くて美しいアユーシャと出会う。アユーシャはカリムという恋人がいながら、親からは別の相手との結婚を強要されていた。それを知ったゴードンは、アユーシャの運命を変える大胆なアクションを起こす。(http://eiga.com/movie/87034/より)

 8.2/10.0

 Twitter(インスタグラム経由の投稿)でも書きましたが、こういう「SF(少し・ふしぎ)×ラブストーリー」がたまらなく好みの人間なので、非常に楽しく観ることができた。
しかも上映時間は90分!2時間越えが当たり前の昨今、なんとも潔い尺。おそらく削りに削って生み出された作品なのだろう。ナイーブな物語だけど、とてもテンポが良く退屈はしない。

ジョー・コール演じる主人公のゴードンが非常に良い。ルックスは整っているからか、Tinderを使えばあっさり女性と出会うことも、さらには関係を持つこともできるのに、「運命の人」に出会うことを静かに夢見ている姿がサマになる。

ラブストーリーだけでなく、所々で挟まれる現代社会に対する示唆的な会話も、考えさせられるものが多く興味深い。

その一つが、ゴードンがロボットで遠隔パトロール中に、盲目の老人がプラントに迷い込んでしまったのを発見し、老人を大通りまで案内する際の会話だ。
ゴードンは「スマホなんかいらない」と話す老人に対して「そのスマホがあればご家族と連絡を取って迷子になんかなりませんよ」と諭す。すると老人は、

「そのスマホ代に私の甥は月々XXXドル払っている。月の稼ぎがXXXXドルにも関わらず、だ。便利だからといって食いついて、結局家族を養うことに苦労してしまっている」 *1

もう一つが、ゴードンと職場の上司の会話だ。
先述した老人の道案内など、業務内容を正直に報告したゴードンは、上司に下記のように注意される。

「報告書にある、“脅威はなかった”という文言はまずい。“脅威”がなくなれば、クライアントはプラント警備のコストを減らす。そうすればお前たちの仕事はなくなる。“脅威”は仕事のために作るものなんだ。報告書を書き換えてくれ」

利便性が増す世の中で、ただ流されるままに消費してしまい、本質的に大切なものがなんなのかを見逃してしまっている、自分自身とも重なるやり取りだった。

上記のように本来業務外であるはずのことを率先して行なったり、あるいは自分に正直に生きたいと願っているゴードンにとって、この世界は非常に息苦しいものなのかもしれない。
その中で、砂漠で純粋な愛を育む2人を見つけ、その純粋さに惹かれた彼は予想外の行動に出る。
彼の一連のアクションは、現実世界を生きる僕らにとっては綺麗すぎるものかもしれないけれど、リアリティある描写でグイグイ引き込まれていく。

小気味よく展開が二転三転する脚本も非常に凝っており、平日の夜フラっと観に行くにはもってこいの快作。独特の動きが可愛らしい石油プラントの監視ロボットもGood。新宿のシネマカリテには本物が展示されているので、上映後に男が群がって写真を撮っていたのはかなり面白かった。*2

www.youtube.com予告通りの映画でした。

*1:金額の部分は忘れてしまったが、稼ぎのかなりの割合を占めていた

*2:もちろん、僕もその1人です