海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

悪女 AKUJO/The Villainess

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 「渇き」のキム・オクビンが女暗殺者を熱演したスタイリッシュアクション。日本で「22年目の告白 私が殺人犯です」としてリメイクされた映画「殺人の告白」で知られるチョン・ビョンギル監督が手がけた。犯罪組織の殺し屋として育てられたスクヒは、いつしか育ての親ジュンサンに恋心を抱き、やがて2人は結婚するが、ジュンサンが敵対組織に殺害される。怒りにかられたスクヒは復讐を果たすが、国家組織に拘束されてしまい、国家の下すミッションを10年間こなせば自由の身になるという条件をのみ、国家直属の暗殺者として第2の人生を歩み始める。やがて、新たな運命の男性と出会い、幸せを誓ったスクヒだったが、結婚式当日に新たなミッションが下され……。(http://eiga.com/movie/87892/より)

9.0/10.0

自分の書いた映画の記事を見返していると、やたらに意識高い系の作品目白押しで恥ずかしくなりますが、「映画に貴賎はない!」と声を大にして言いたいです。血煙しか記憶に残らないこの映画、最高でした!!
ここ数年のアクション映画を振り返ると、アクションに作品のステータスを全振りした『ジョン・ウィック』シリーズや、女性の活躍にフォーカスした『ワンダー・ウーマン』、その2つの要素に「諜報もの」まで盛り込んだ『アトミック・ブロンド』などなど……とりあえず「心の中で雄叫びが湧き上がる映画」が、高クオリティでバシバシ上映されてきましたが、本作はその頂点に立ったと言ってもいいでしょう。*1

上記にも引用済みだが、未見の方はまずあらすじを読んでほしい。物語の一部は下記となっている。

国家組織に拘束されてしまい、国家の下すミッションを10年間こなせば自由の身になるという条件をのみ、国家直属の暗殺者として第2の人生を歩み始める。

これを要約すると、「特にストーリーはありません」ということだ。

あくまでヒロインがどんなシチュエーションで、どう相手をぶっ殺し回っていくかが主眼に置かれ、そのために荒唐無稽なストーリーが申し訳程度に付いてくる。
だが、それでいいんです。ラーメンのセットにケーキが付いてきたら最悪じゃないですか。

特に恐ろしいのがカメラワーク。一体全体どうやって撮っているのか、というより、そもそもこんなコンテをよく思いつくよなというショットの連続で、キム・オクビンのアクションを存分に堪能できる。

そして本作で何よりもリスペクトしたいのが、「馬鹿馬鹿しい設定の物語」を「いかに映画的な説得力を損なわずに作るか」という、製作陣の意気込みやガチ具合、実現できるスキルだ。

邦画の、例えば漫画原作の実写作品だと、どこか「このくらいでいいだろう」という妥協が見え隠れする瞬間がある。*2上記のあらすじも文字にすれば馬鹿馬鹿しいのだが、それを作る側が馬鹿にしてはいけない。
本気で取り組んでいるからこそ、スクリーンの前にいる観客もこの設定に燃えて画面にかじりつく。
そういう幸福な時間は、発信側と受け手側双方が同じ思いにならないと実現し得ないものなのだと、この映画を観てつくづく思った。

 

【余談】※微妙にネタバレ

「ストーリーがない」と書いてしまったが、恐ろしいくらい「設定の宝庫」であるので、スピンオフ企画が死ぬほど作れる作品だ。前日譚だけで3本はいけるはずと思い、勝手に考えてみました。以降はただの妄想です。勢い重視で書いていますので、劇中の設定と矛盾があったらごめんなさい。

1本目:国家情報局のクォン幹部のオリジン(タイトルは『悪女0-AKUJO ZERO-』)

なにやら悲しげな過去を胸に秘めているらしい蓮舫ルックなクォン幹部。劇中の会話から察するに、過去にパートナーが非業の最期を遂げたのだろう。
リングマシーンとして活躍していた過去の彼女が、日々のミッションの重圧に耐えられたのは「彼」がいたから。しかし、その彼すら、組織内の無情な権力闘争に巻き込まれて殺されてしまう。
怒りに打ち震えたクォンは、仲間とともに組織を相手どった復讐を試みるが、それすら権力闘争の駒として利用されていたに過ぎなかった!  結果的に最愛の相手との間にできた子供は、現在も人質同然に幽閉されている。
冷酷無比に見える彼女も、自らの子供を守るために、組織への永遠の忠誠を誓うこととなったのだ––

2本目:ジュンサンのオリジン

「殺し屋育成」に長けた裏社会の住人となる前は、エリート銀行員であったジュンサン。彼には、かけがえのない家族がいた(適当)。
優しい妻と、笑顔の絶えない娘たち。超アッパークラス向けの融資を担当する業務はなかなかにハードだったが、確かな収入と温かい家庭があれば人生は満足だった。
しかし、過去に行った「組織」との非合法すれすれの取引が仇となり、家族は皆殺しに。
その時、彼は「人の道」を歩むことをやめたのだ––

3本目:韓国裏組織のスピンオフ

構成員の戦闘力があまりにもインフレしている韓国裏社会。鉄砲玉といえどもある程度の殺傷能力を持っていないと、組織とのまともな抗争ができない状況だ。
弱小ファミリーのチエ一家(適当)は、戦闘員育成の資金が乏しく、このままではソウルで勝ち上がれない。極悪非道なサディストとしても有名な組長は、貧困地域の孤児らに爆弾を仕込んだ「消耗少年団」による敵対組織へのカチコミを構想する。
少年たちの世話役を任された若頭は、自身も孤児院出身ゆえ子供たちとの交流によって次第に情が湧いてしまう。
なんとか子供たちを救えないかと画策するが––

*1:当然ですが、個人の見解です。

*2:実写化作品の中でも、『帝一の國』はガチで取り組んでいる傑作だと思います