海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎文庫)

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山内マリコのデビュー短編集。単行本は2012年8月、文庫本は2014年4月発売

そばにいても離れていても、私の心はいつも君を呼んでいる——。都会からUターンした30歳、結婚相談所に駆け込む親友同士、売れ残りの男子としぶしぶ寝る23歳、処女喪失に奔走する女子高生……ありふれた地方都市で、どこまでも続く日常を生きる8人の女の子。居場所を求める繊細な心模様を、クールな筆致で鮮やかに描いた心潤う連作小説。(「BOOK」データベースより)

7.9/10.0

綿矢りさ原作の映画に喝采して、山内マリコの小説を読んで、好きな漫画家はヤマシタトモコと、いまどき下北大好きな独身サブカルOLでも歩まなそうなベタな感じで趣味が進んでいるんですが、まぁ面白いものはしょうがないよね。

本書は数年前にTwitterで「文中にウータン・クランやアイスキューブが出てくる小説がある!」なんて紹介のされ方と、タイトルの素晴らしさに惹かれていたけれど、長い期間読むタイミングを逸してしまっていた。
いざ年始の空き時間に手に取り読み進めると、物凄い口当たりのいい文章と程よい長さの短編が生むテンポ感に引き込まれ、あっという間に読了できた。

本書はとある地方都市を舞台にし、かつてサッカー部で活躍し男女問わず人気を得ていた男子「椎名」を影の主役にして、どの短編も進んでいく。

いつか都築響一が(本書の参考文献にも、彼の著書が掲載されている)、「日本には“地方”はもはや存在しなく、“都市”と“郊外”しかない」ということを言っていたが、本書もその考えを引き継ぐように、特定の地名は明かされない。あくまで「都会でないどこか(=郊外)」が舞台であるのだ。

おそらく多くの人がフェイバリットに挙げるのが、1本目の「私たちがすごかった栄光の話」だろう。
東京でのクリエイティブな仕事への夢が破れ(と、いうほど大げさなドラマがあるわけではないことも、物語の切なさに拍車をかけている)地方に戻り、昔取った杵柄でライター仕事をしながら実家で過ごす主人公が語り部の本編は、短編の中でも最もリアリティがあって面白い。
主人公は同級生との再会を機に、憧れの対象だった椎名に会いにいくわけだが、自分が描いていた理想とかけ離れて「所帯染みてしまった」彼に寂寥感を覚える様は、男女問わず共感してしまう部分があると思う。

そういったメインストリームに行けなかったティーン〜30代の語り部の視点を借りて進む本書は、もう一つ「バディもの」的な側面が非常に面白い。現実に鬱屈し、愚痴り合いながらも突破口や妥協点を仲間と探っていく様は、まさに若者の日常と言っていいのではないだろうか。
そう思いつつ読み終えてタイトルに目を移すと、この魅力的な言葉も、彼らの口から出る「愚痴」の一つであって(そりゃ白馬の王子が迎えに来てくれるに越したことはないけど)切実に求めた言葉かと考えると、少し違うように感じた。

つまらないけれど、なんとかやっている日常を描くこの本が、受け手にとって「退屈な日々を過ごす相棒」として寄り添ってくれる。そんな関係性が成り立っているんじゃないかな……と書くと、少し綺麗にまとめすぎか。

【追記】

・映画化されるそうです

今はエキストラ募集のTwitterアカウントしか機能していませんが、

監督は『ストロボ・エッジ』、『オオカミ少女と黒王子』、『夏美のホタル』、 『PとJK』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、『伊藤くん A to E』などを手がける廣木隆一http://ドラマ・映画・テレビ.com/movie-boring-pick-up/より)

ってあるけど、この映画の並び見る限り逆宣伝だろ! 『ドラマ版 火花 総監督』って書いてくれよ!