海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

ビジランテ

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「22年目の告白 私が殺人犯です」「SR サイタマノラッパー」シリーズの入江悠監督によるオリジナル脚本作品。大森南朋鈴木浩介桐谷健太の主演で、入江監督の地元である埼玉県深谷を舞台に地方都市特有の暗部を描いていく。高校時代に行方をくらました長男の一郎、市議会議員を務める次男の二郎、デリヘルの雇われ店長をしている三男の三郎。三兄弟はまったく世界の異なるそれぞれの道を生きてきた。兄弟の父親が亡くなり、失踪していた一郎が30年ぶりに突然帰ってきたことにより、三兄弟の運命が交じり合い、欲望や野心、プライドがぶつかり合う中で、三兄弟を取り巻く事態は凄惨な方向へと動いていく。大森、鈴木、桐谷がそれぞれ長男、次男、三男を演じるほか、篠田麻里子が次男の妻役で出演。(eiga.com/movie/86664/より)

8.7/10.0

「22年目の〜」で大復活を遂げた入江監督の久々のオリジナル作品は、サイタマノラッパーシリーズの「3」で描かれた地方都市の暗部を、よりリアリティ溢れる映像・物語で表現した、シリアスなヒューマンドラマだ。

本作や「22年目の〜」を見ると、やはり入江監督は自ら脚本を手掛けるべきだなという思いが確信になった。2時間という枠でどういった世界を広げるべきか、相当な計算の果てに映画が成り立っているのだろうな、と感じるのだ(原作があると「抽出」の作業が必要になるからね)。

本作を見ている最中は、今年上映された傑作サスペンス、「ELLE」に通づるものがあると感じていた。我々とは少し離れた生活をしている人間たちも、大小様々なトラブルに日々苛まれながら生きていく様は、共感できる部分もあるからだ。そして当然全ての事象に対してなんらかの回答が提示される脚本の緻密さ、スマートさも両作に共通する魅力だ。

その点で言えば、「日本の地方都市」を舞台にした本作の方が、より受け手にとっては身近に感じる部分があるのかもしれない。親子三代以上にわたって住み続けている外国人コミュニティ、大型ショッピングモール建設にまつわる行政の癒着体質、地方都市の風俗産業とヤクザのケツ持ち、閉鎖的な土着ゆえゆがんだ家庭環境……物語の素材の多さには一見面食らうが、これらが綺麗に整頓された入江監督の手腕は見事と言う他ない。こういったダークな物語こそ邦画だよな!と、ひたすら陰惨な物語なのに思わずガッツポースを心の中でしてしまったほどだ。

主演3人の演技はもちろんのこと、脇を固める役者(の使い方)もいい。なんと般若がデリヘルのケツ持ちヤクザ役なのだが、三軒茶屋時代にいつでも戻れそうな厳つさは、とても子持ちのパパとは思えない迫力だ。若干声が高いから、凄みは格下役の桐谷健太の方があるんだけど許容範囲だろう。品川のクソ映画に出るよりもよっぽどマシな役だった。

そして結構凄かったのが篠田麻里子。演技が上手いかというとそうでもないし、車内での濡れ場も出し惜しみしてるし、もうちょい気合入れろやと言いたいところだが、役そのものが良い。
意図的にカメラには映されていないが、彼女が「ある決断」をしていることが、要所要所でわかる(予想できる)時は、彼女の豪胆さとこの物語世界のおぞましさに驚愕する。

しかし何よりも演技が光るのが桐谷健太だ。デリヘルの雇われ店長なのだが(そもそも地元の有名政治家の息子が、ヤクザの使いパシリをしている設定は謎なんだが)、一番情に熱い男で、物語に一番ドライブをかけてくれるニクい男だ。普段はそっけない振りをしているところも良い。アウトレイジのラーメン屋超えの暴力描写の演技も見事だった。

本作は入江監督お得意の長回しカットは少ない。あれが苦手な人も楽しめる(話は陰惨だけども)作品だと思う。気温もグッと下がって年末が近づいてきているわけだが、邦画ベストを考えている人は見逃さない方が良い。