海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

ゆるふわギャング『Mars Ice House』

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01. Go! Outside
02. Dippin’ Shake
03. Hunny Hunt
04. Bleach The World
05. YRFW Shit
06. Don’t Stop The Music
07. Fuckin’ Car (prod. by JayTrill & Malikai Hits)
08. グラセフ feat. LUNV LOYAL
09. パイレーツ
10. Sad But Good
11. Stranger
12. 大丈夫
13. Sunset
14. Escape To The Paradise (prod. by Estra)
15. Yes Way≠No Way

Ryugo Ishida、Sopheeの男女ラッパーコンビと、トラックメイカーのAutomaticの3名からなる、茨城と東京を拠点に活動するグループのファーストアルバム。2017年4月5日発売。

8.9/10.0

クラウドファンディングを成功させ、無事アルバムがリリースされることとなった本作。僕も一番安いアルバム購入プランで支援をしたのだが、作品へ過剰な期待をしての投資というよりも、ちょっとしたお祭りに参加する気分でのことだった(もっとも、目標額が200,000円と安すぎるので、プロジェクトが未達であろうがレーベルがリリースしたのだろう)。そして一般流通に先駆けて手元に到着した本作は、半年以上経った今でもかなりの頻度で愛聴している傑作だ。
彼らの魅力を挙げるのなら、真っ先に思いつくのが2点。「イノセントな世界観」と「上質かつポップなサウンド」だ。

まず「イノセントな世界観」。成り上がり思考が強いヒップホップでは、「メイクマネー」や「豪邸を建てたい」といった歌詞がよく使われる。本作でもそういったフレーズはよく耳にするが、いわゆる「欲」から出た感情というよりは、もう少しファンタジーな、言ってしまえば「空を飛びたい」的な無邪気さで歌われている。その世俗的な欲望から、一線を画した彼らの温度感で歌われる歌詞は非常に心地いいし、むしろ「変な欲がないぶん本当に叶ってしまうのでは?」と思わせる力もある。

トラックに関してはYouTubeに大量にアップされたMVなどで確認してもらいたいが、ほぼ一人のアーティストから生み出されたとは思えないバラエティ豊かなサウンドに二人のラップが乗っている。
個人的に特に気に入っているのはドリーミーなM-3や、少し前のエレクトロ感のあるM-10、15などだ。あえてヒップホップから逸脱したサウンドも取り入れ、二人の持つポップセンスを引き出そうとするオートマティックの姿勢は正しくプロデューサーではないだろうか(一方で某ロックバンドの楽曲をサンプリングしたM-14など、難易度の高いトラックを用意しているのもニクい)。

ネットにいくつかあるインタビュー記事にある通り、本作の制作はアルバムの前半と後半で一変しているらしく、これまでストック的に録っていた前半部分と、クラウドファンディングが成功以降に巻き込まれたトラブルなどで陥った、ネガティブな状況を脱するべく作られた後半部分に分かれているようだ。
しかし後半部分にその状況を直接反映させず、彼らはあえてポジティブなアウトプットを心がけている。自分たちが出す初めてのアルバムに悲しみの色を混ぜないように。これをイノセントな作品と言わずして、なにをイノセントとすべきか!

彼らの確固たる世界観に魅せられる60分となる名盤だが、次のアルバムでは大勢の客演を呼び込んで、ゲストが「ゆるふわ色」に染まるとどのように変貌するのかを見てみたい。実際SALUはこの世界観に魅せられて、もう2回も客演に呼んでいるわけだしね。

・M-3「Hunny Hunt」

・M-10「Sad But Good」

・M-14「Escape To The Paradise」