海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール

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絶妙な細かいディテールが人気の渋谷直角によるサブカルマンガを、妻夫木聡水原希子の共演、「モテキ」「バクマン。」の大根仁監督により実写映画化。奥田民生を崇拝する雑誌編集者を主人公に、全編にわたって奥田民生の楽曲が使用されるラブコメディ。「力まないカッコいい大人」奥田民生に憧れる編集者コーロキが、おしゃれライフスタイル雑誌編集部に異動となった。仕事で出会ったファッションプレスの美女、天海あかりに一目ぼれしたコーロキは、あかりに見合う男になるべく、仕事に精を出し、デートにも必死になる。しかし、やることなすことすべてが空回り。あかりの自由すぎる言動に常に振り回され、コーロキは身も心もボロボロになってしまう。コーロキ役を妻夫木、あかり役を水原が演じるほか、松尾スズキ新井浩文安藤サクラリリー・フランキーらが脇を固める。(eiga.com/movie/84985/より)

7.8/10.0

予告編を劇場で見たときは、「まんまモテキやんけ!」と思ったのだが、実際観てみるとそこまで「モテキ」ではなく、原作の雰囲気を忠実に再現していて、それだけでもかなりの良作だと思う。

というのも、本作はそもそも「原作を再現」することがかなり難しいと感じるからだ。
渋谷直角の味のある絵はどこまでもコメディなのに、展開される物語はかなり生々しい。このコントラストがブラックな笑いと、サブカル(と、それにまつわる恋愛)に傾倒したことのある人間なら身につまされる切なさを両立させているのだ。

その雰囲気を実写で見事に再現した大根仁(完全に余談だがいつも“だいこん・じん”と読んでしまう)の手腕・センスはさすがだ。もちろん、出演する俳優陣の演技力あって成立しえることだと思う。

中でも本作で水原希子の演技は凄まじい。ありとあらゆる男を勘違いさせていくスキルを見せられていると、ラストになるにつれて「人の皮を被った悪魔」にしか見えなくなる。いや、実際彼女は古今東西の悪女的な要素をぶち込んだ「ヒトではないナニカ」だと思わないと女性不信に陥ってしまう怖さだ(一方で「彼女の人生に何があってこうなってしまったのか」が気になってしまう。危険な兆候だ)。

本作をラブコメというよりは、「社会人青春コメディ」と思って観ている人間としては、狂わされる男たちは、それぞれに好きなものに対してあかりに一生懸命話をするシーンが印象的だった。

それぞれに思い入れのあるモノ・コトについて熱く語るのだが、対してカルチャーに関心を持たない彼女の発する真理めいた一言に、思わず男たちは口をつぐんでしまう。なんというか、「いざという時のオタクの無力感」みたいなものが象徴されているようで、個人的に最も心に傷を負ったシーンです。

一方で不満点も少し。細かいところでのサブカルチャー描写のツメが甘い! 冒頭の歓迎会のくだりで「洋楽を聴く人は邦楽、ましてや奥田民生なんて聞かない」的な描写をしているが、熱心に音楽を聴く層が減り続ける現状で、いまどきそんな線引きしているヤツいねーだろ! とか(原作は「森は生きている」とか邦楽のバンドも取り上げた会話になっていて、こちらの方がリアルだった)、原作にあった書店での一般人の「ライフスタイル誌ディス」を削っちゃうのとか、少しラブコメ路線を強調しすぎているきらいはあった。もちろんその方が一般層受けはするんだろうけど。