海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

ヤなことそっとミュート『STAMP』

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01 Any
02 No Regret
03 AWAKE
04 天気雨と世界のパラード

[以下、配信・サブスクリプションのみ収録曲]
05 morning(LIVE ver)
06 sputnik note(LIVE ver)
07 Lily(LIVE ver)
08 am I(LIVE ver)

アイドルグループ、「ヤなことそっとミュート」の3rdミニアルバム。2017年7月26日配信開始(CD販売は8月16日)。

8.0/10.0

前作のクオリティの高さは記事で取り上げたが、勢いを殺さずリリースされた本作はまた別のヤナミューの魅力を知れる名刺として良く出来上がっていると感じた。
というのも、グランジオルタナのサウンドにとらわれず、「ロックサウンド」に表現の幅を広げたからだ。

疾走感溢れるギターロックソングのM-1はこれまでの曲を熱心に聞いていた身からするとかなり開けたサウンドになっている。笑顔で歌い跳ねる彼女たちが眩しいMVも新境地だ。

一方でシニカルな世界観の歌詞は健在だ。

どうせプラシーボ 気まぐれな恋に泣いて
ハイテク遊牧民
虚構を育てる
うがった予防線に
雨降りが舞って
自作の常套句
本当は無理してる

(略)

眠らない日々と缶コーヒー
マテリアル主義の最後尾

キャッチーな言葉選びだが、改めて字で眺めると強烈だなぁと感じる。作詞はSay Hello To Sunshineの畠山凌雅だが、日本語詞もこんなに鋭い歌詞が書けるのか! と驚く。ロックでは軽視されがちな韻も硬く踏んでいて、読んでも聞いても気持ち良い歌詞を書く。

先日MVが発表されたM-3は、これまでのヤナミュー路線をさらにアップデートさせた名曲。こちらもロックバンド、HOMMヨで活躍しているニイマリコによる歌詞が冴え渡る。

また乗り過ごした 唸る焦燥
深呼吸をして

目覚めたなんて 大袈裟なのかな
希望だなんて
大袈裟なのか
We will never surrender

刹那さと切なさをベースに広げられる世界は、無力感を感じながらももがく心情が描かれていて、その誠実さが胸を打つ。映画館で撮影された、幻想的な雰囲気を携えたビデオを見ると魅力が倍増する。

作品を締めくくるM-4はメロディックなギターリフが耳に残るポップな曲だ。

空模様はちょっとアイロニー
グレイをもっと濃く照らす
ばら色の日々なんてない
そう示すように
今日を止まり木に
裸眼じゃ明日の空も知れない

ただ免罪符を探して

空きカンをそっと ついばんでは
欲を掻いている
カラスと人々は
ダブるけど

こちらも畠山凌雅が歌詞を手がけているが、タイトルの「天気雨」が象徴するように。ポジティブとネガティブがないまぜになった複雑な心境を丁寧に言葉で紡ぐ。
名曲「Orange」を彷彿される「色」を特徴的に用いた歌詞の風景描写が美しいバースの前半と、比喩を巧みに使いながらゴミを漁るカラスに視線を移す「汚さ」を描いた後半のコントラストが目を引く。
続くサビ〜2ndバースも素晴らしく、カタルシスを感じさせるフィナーレまで聞き応えのある曲で、ライブ中でもバラードでもないのに思わず聞き入ってしまうナンバーだ。

配信限定でボーナストラック的に収録されたライブ音源も聞き応えがあり、一聴するとバンド隊を率いたライブなのかと思わせるほどにバックトラックに臨場感がある。
会場ごとに音作りを念入りに行なっているというスタッフの努力の結晶なのだろう。ハマってかれこれ3週間経ち、運良くライブも2回行っているがバンドいらずのサウンドのクオリティはぜひ現場で体験していただきたい。

一方で音だけで聞いているゆえか、メンバーの音程外しや個々人の声量の差も如実に現れてしまっている。結成して1年、むしろライブのクオリティは断然高い部類なので今後の成長でいかようにでも巻き返せる。

EPということもあり、さらにファン層を拡大すべくキャッチーな曲をコンパクトにまとめた「ヤナミュー第2期」を象徴する名刺のようなアルバム。ライブ音源の「“今”をパッケージしている感」も絶妙なので、これ読み終えた人は今すぐ聞きましょう。

・ヤなことそっとミュート - Any

・ヤなことそっとミュート - AWAKE

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