海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

ヤなことそっとミュート『BUBBLE』

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1. morning
2. カナデルハ
3. Lily
4. am I
5. ツキノメ
6. Just Breathe
7. orange
8. 燃えるパシフロラ
9. see inside
10. sputnik note
11. Done
12. ホロスコープ
13. No Known

「ヤなことだらけの日常をそっとミュートしても何も解決しないんだけど、とりあえずロックサウンドに切ないメロディーを乗せて歌ってみる事にする。」がコンセプトのアイドルグループ、通称「ヤナミュー」の1stフルアルバム。2017年4月15日発売。

9.2/10.0

すでに以前のポストでも彼女たちの魅力に触れたが、ノリ重視で書いた散漫な文章でもあったので、改めてアルバムの紹介ができればと思い、記事を書くことにした。

ヤナミューを聴いて衝撃的だったのが、なによりもそのサウンドだ。BABYMETALをはじめとする、バンドサウンドを取り入れるアイドルは今や珍しくはないのだろう。メタルやパンクといったジャンルは、ある種分かりやすい様式美がある分アイドルと組み合わせると独特な魅力を出せる(出しやすい)。

対してヤナミューが鳴らすサウンドは、オルタナグランジ系のサウンド、乱暴にいってしまえばカート・コバーンを頂点としたこの音楽ジャンルは、どちらかというと演者の内面性を抉り出すような表現スタイルが主である。その分メタラーやパンクスなどの「分かりやすいビジュアル」がないため、女性アイドルが音楽性の柱にするのは難易度が高いように思えるのだ(もちろん、メタルやパンクに「内面性がない」とは言わない。あくまで「翻訳のしやすさ」という意味で引き合いに出している)。

しかし、彼らは見事に音楽性と世界観を確立させている。アイドルという、「いっときの若さを燃やすことで魅力を発する世界」とノスタルジックさ満載の歌詞の切なさが、刹那的に鳴らされるギターサウンドと調和している。曲によってはボーカルすらもかき消すような轟音ギターが鳴るようなものもあり、彼らの音楽性が単なるファッションに留まっていないことがわかる。

全曲魅力に溢れているが、特に気に入っているのがM-7の「Orange」。夕焼けの色を冠したこの曲は、旅立ちを目前にした主人公が「色」をキーワードにこれまでの思い出を振り返り本人すら忘れてしまった感情を思い出す描写が美しい。メンバーのコーラスワークも随所に冴え渡り「エモさの純粋結晶」のような名曲に仕上がっている。

M-9の「see inside」は日本のバンド、Say Hello To Sunshineの「Mulholland Dr.」のカバー。原曲はグランジとエモをミックスさせた直情的な名曲だが、ヤナミューのカバーバージョンも負けず劣らず素晴らしい。このグループはメンバーの間宮まにとなでしこがメインとなりパートを歌い分けることが多いが、二人とも異なる芯の強さをもった声が曲と合っている。この二人の声がグループの世界観の根幹にあるんだろうなと感じさせる一曲。

アルバムのクライマックスと言えるM-12「ホロスコープ」はもう、ひとまず聞いてくださいとしか言いようのない名曲。ダウナーなオルタナティブロックのバースからサビで一気にスケール感が増すボーカルの絶唱がひたすらに眩しい。これまでの曲が切なさ一辺倒の歌詞だったせいもあるのか、希望へ向かう歌詞がなおさら泣ける。

現在の彼女たちのスケジュールを見ると、夏休みのせいもあるのか毎週なんらかのイベントでライブをしていて、ガチでそこらのライブバンド以上の現場経験を積んでいる。ライブの撮影は許可されているそうなので、YouTubeには有志によるライブ動画がバンバン上がっているが、日を追うごとに上達していくライブスキルは圧巻。聞けば聞くほどライブに足を運びたいと思わせるグループです。

まだファーストアルバムだから今後の成長にも期待したいが、ボーカル力のある二人が常に楽曲のメインを張っているので(この辺は実力主義的でかなりシビアだなと感じた)、残る二人のレナと南一花にもメインボーカルができるような曲が増えて欲しいと思う。

結成して1年、伸びしろしかないバンドだと思います。

・Say Hello to Sunshine - Mulholland Dr.

M-9の原曲。よもやこの日本人離れした曲がアイドルにカバーされることになるとは本人も想像つかなかっただろう。

 

・ヤなことそっとミュート - ホロスコープ

グループの代名詞といえば「Lily」なんだろうが、この曲とorangeが好みです。

・ヤなことそっとミュート - AWAKE

こちらは本作には未収録だが、最新EPに収録されている新曲。イントロのブリブリなベースといい、メランコリックな歌い回しといい、ハイレベルすぎる……