海辺にただようエトセトラ

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tofubeats『Fantasy Club』

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トラックメイカー/シンガーであり、曲によっては味のあるラップもこなすアーティストのメジャー3作目。2017年5月発売。

M-1. CHANT #1
M-2. SHOPPINGMALL (FOR FANTASY CLUB)
M-3. LONELY NIGHTS
M-4 .CALLIN
M-5. OPEN YOUR HEART
M-6. FANTASY CLUB
M-7. STOP
M-8. WHAT YOU GOT
M-9. WYG(REPRISE)
M-10. THIS CITY
M-11. YUUKI
M-12. BABY
M-13. CHANT #2 (FOR FANTASY CLUB)

9.0/10.0

tofubeatsといえば、「豪華絢爛な客演を招き、良質なポップアルバムをつくる職人」という印象が強く、その「狙ってる感」があまり好きになれないアーティストだった。
しかし客演をグッと減らし、自身のボーカル曲を増やした今作は、彼の代表作として語り継がれる名盤になったのでは、と思う。

以前からライブでの披露(M-12)やリリックビデオのアップ(M-24)などで耳にした曲も並ぶが、これまでの豪華シングルが目立つ作品とは異なり、アルバムから「一つの流れを持った作品」という強い意志が見え、事実通して聞くと非常に心地いい。

歌詞がかなりパーソナルなものに絞り込まれているのもその要因の一つだ。
昨年のベストソングに挙げたM-2に顕著だが、「分からないことを“分からない”と明言する」その姿勢は、他者を善悪/敵味方に分けたがり、マウンティングの応酬が当たり前となっている現代に足りないものだ。
アルバムのど真ん中(M-5〜7)はインスト曲で占められている。バラエティ豊かな「言葉なき音楽」を聞く我々は、そこで何を考えるべきか。あるいはダンスして目の前の憂鬱から目をそらすべきか。いずれにせよ無知を自覚し、何かを選択する必要がある。

そんな思いを巡らせてアルバム終盤のM-12にたどり着くと、少し、いや、かなり切ない思いに駆られる。一聴すれば甘いラブソングに聞こえるこの曲は、「他者を理解し切れない」ことのやり切れなさを歌っているからだ。
しかし、だからといってネガティブな曲ではない。
「君」の中に優しさを見出し、今以上の「ドキドキ」を得る。そんな喜びもないまぜになった歌だからだ。
安易に白黒つけず、曖昧な中に宿る想いこそ、「真実」なのではないか。仕事や学校や部活動が楽しいことばかりではないけれど、つまらないことばかりでもないのと同じように。

サブスクリプションが主流の世の中で、「プレイリスト」や「曲単位」で聞かれることばかりが増えた音楽シーンに逆行するように、「アルバム」だからこそ表現しうる作品を作りあげたtofubeatsの気概が溢れる傑作。

M-3 LONELY NIGHTS(Feat.YOUNG JUJU from KANDYTOWN )

 

M-8 WHAT YOU GOT


M-12 BABY