備忘録的な。
●沙村広明『波よ聞いてくれ』(アフタヌーンKC)
『ハルシオンランチ』でもぶっ飛んだギャグ漫画を描いてたけど、本作のギャグ路線はだいぶ一般向け。
脚本というか、物語のテンポ、登場人物同士の掛け合いがマジで面白い! ドラマ化いけると思う。
肝心のラジオの話は次巻以降になると思うが、引き続き面白いストーリーを期待です。
ネット界隈では「(自称)サバサバ系女子」はヘイトの対象だけど、ミナレさん(主人公)はめちゃめちゃ僕好みの女性です。
●山田参助『あれよ星屑』(ビームコミックス)
太平洋戦争を生き残った兵士二人を中心に戦後の東京を描くブロマンス。
かつての日本では戦争に行って「玉砕」すれば、神様になれた。僕の祖父は「神様」にならず生き残った人だが、「戦争の話をして」とせがむといつも苦笑しながらはぐらかされた。
13の時に祖父が亡くなり、結局話は聞けずじまいだった。
「神様になり損ねた」主人公たちが東京の闇市で孤児やパンパンと交流しながらゆったりと生きる様は、穏やかだがどこか切ない。
画像の2巻は戦中のエピソードが回想形式で描かれる。おそらく戦争で死んだ人もいるんだろう。そこにいるのは「神様」でなく血の通った人間たちだ。怯えをひた隠すように集団で群れ、若い兵隊を虐める上官。中国人を処刑できない若い兵士。自由時間に嬉々としてピー屋(売春宿)に駆け込む主人公……。全員の胸にあるのは、「生きて日本帰ることはない」という言葉。
儚い青春に胸が締め付けられるが、姉御肌の慰安婦のセリフも刺さる。
「兵隊の多い町じゃご飯食べるヒマもなくってお客乗っけたまんま握り飯食べたもんよ」
「あたしら死んだって墓も建ててもらえなけりゃ戒名もない」
●木尾士目『げんしけん二代目』(アフタヌーンKC)
げんしけん(初代)が画期的だったのは、「作中期間がリアルタイムで進んでいったこと」につきる。読者はマンガの登場人物と同じだけ年を取って、自身の変化と重ねさわせて、彼らの言動に一喜一憂できたのだ。
さらに言うと序盤は「オタク同士の日常もの」だったストーリーが大きく「恋愛もの」に代わっていったことも「読ませる内容」となった。まるで冒険ものだったドラゴンボールがバトルものになったように…。作者がどこまで意識しているかわからないけど、当初はここまで恋愛要素を入れる予定はなかったのでは、なんて勝手に推測してる(違ってたらすみません)。
そして一度は終えた作品を「二代目」として連載し、ウリだったはずのリアルタイム連載はなくなり、遅々としたストーリーペースで物語は巻を重ねている(作中期間は1年も経たずに初代の巻数越えてっからね)。
こうしてげんしけんの要素を振り返ると、
・ストーリー方針の転換
・人気作品の引き延ばし連載
・絵柄の超絶変化(いつの間にかこの作品自体が萌え画風に…)
と、日本の連載漫画の悪しき風習を詰め込んだような作品になってきている。
しかし、それらを覆す面白さをげんしけんはまだ持ってると僕は信じてる。
作中に出てくる学園ラブコメ漫画で「人気の高いキャラが卒業したら話がもたん!」という、げんしけんにそのまんまあてはまるネタを自虐的にぶち込んでいたが、「そろそろ班目がげんしけんを(精神的に)卒業すべきだよな」っていうのは読者の総意だと思う。
●太田垣康男『機動戦士ガンダム サンダーボルト』(ビッグスペリオールコミックス スペシャル)
絵は死ぬほど上手いし、ストーリーは死ぬほど燃えるし、人は死ぬほど死にまくって諸行無常を死ぬほど感じまくるし(文法崩壊)、発刊ペース結構早いわで非の打ちどころのない作品。
連保のエースパイロットがジャズを聴きながら戦うのに対して、ジオンのエースはダサめな懐メロポップスを聴いているって設定もクール!
オリジナル要素が相当強いのでガンダム詳しくない人でもすんなり入れる作品。超おすすめ。
●ヤマシタトモコ『WHITE NOTE PAD』(FC swing)
相変わらず話の着眼点がすごいというか…
38歳の自動車工と、17歳の女子高生の体と人格が入れ替わるっていう、設定だけ見ればコメディマンガのはずが、筆致はひたすらシリアス。
女子高生になったおっさんは見事イメチェンに成功し、地味JKから読モに。おっさんになった世間知らずの女子高生は、周囲から「記憶喪失」と認定され職を失い、結果(中身は)おっさんがモデルを務める雑誌の雑用係として働くことに……。
あまり描くとネタバレになってしまうけど、本作も根底にあるのは従来のヤマシタ作品で描かれる「アイデンティティの変容」だ。ヤマシタ作品では「ノンケが同性愛者」になたり、「だんだんぽっちゃりフェチに傾倒していったり」といった、些細な積み重ねが人を変化(成長)させることを丁寧に描いていく。本作もそれに通ずることが描かれている。読ませる。
今後の展開がどうなるのか全く読めない。そもそも二人の人格が入れ替わった経緯も曖昧にしか描かれていない。まさかのディストピアものの新作『花井沢町公民館便り』ともども続きが気になるね!
●渋谷直角『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』(扶桑社)
渋谷直角の作品へのレビューで「夢追い人やサブカルの人を見下しすぎている」という評が結構目立つ。
そこら辺の批判に関しては、僕はむしろ愛情の裏返しなのかな、程度に感じている。
むしろ渋谷直角は一面的な情報のとらえ方によるバッシングだったり、物質主義・資本主義への警鐘を主なテーマにしていると思う。
実名がバンバン出てくる演出で現実と地続きになっている分、「内容のリアルさ」に引っ張られ、少しでも心当たりがあると「自分自身が馬鹿にされている」ように感じてしまう……そんくらいの「重力」、「磁力」を持った作品であるすごみは好き嫌いは別にして読者の心に刻み込まれるよね。
ほかにもいろいろ読んだけど、気が向いたら更新します。 次は読んだ本について書けたらなって思います~